断熱施工の落とし穴…の落とし穴…?
今年のゴールデンウイーク、巷では10連休ですが私は、ほとんど休みを取ることもなく何かの仕事をしています。この休み中にやっておきたかった用事の一つに事務所内の整理・整頓があります。10年以上は出し入れをしたことが無い可動式の棚の後ろに隠れた元からあった固定棚の冊子や資料を全て出し、ほとんどを紐でくくりリサイクルに持って行きました。
棚にあった多くの書類の中で、これは残しておこうと思った物が、2002年に発行された『断熱施工の落とし穴」と云う冊子です。この冊子は、日経ホームビルダー2002年9月号から抜粋したものです。当時、私は、外張り断熱工法の『ソーラーサーキット』 を施工させていただいていましたので、おそらくそのソーラーサーキット会の手配でまとめて購入したものだと思います。
内部結露の恐ろしさを説明した内容で、冊子中程の見開きのページですが、断熱材を入れた内側に湿気を通さない『防湿フィルム』を隙間なく連続して張る…とあります。この防湿フイルムは何の為に張るのか…?。答えは、室内で温められた水蒸気を多く持っている空気が外壁に面した『躯体内』の冷たい空気の所に入れない様にする為です。水蒸気を多く持った暖かい空気が冷たいものに触れると水滴になります。それが『結露』で、躯体の中に発生すると『内部結露』になり、柱や梁等を腐らせる原因になります。
冊子では、コンセントボックスのカバーや柱廻り、ダクト回り等を入念に気密テープを張るように書いてありますが、そもそも電気の配線をコンセントボックスカバー程度で湿気が通らない様に施工する事など到底無理な話なのです。カバーに一本の電線しかない場合はまだしも、太さが違う電線が何本もボックスカバーに刺さっている状態では、ポリエチレン製のカバーでは湿気を止めることはできません。カバーがゴム製であっても複数の電線が刺さっていれば湿気を通せんぼすることは難しい事です。完璧に湿気を通さない様にするにはコンセントボックスなどをつけずに配線のみをして配線周りをコーキングで埋める様にするしか方法がないと思います。
問題はこの様な事ではなく、断熱材の室内側にビニール製の『防湿シート』を本当は張ってはいけないのですよ…と云う事です。湿気の粒子はとても小さく、ごくわずかな隙間でも侵入します。ビニールシートを張ってはいけない理由は、ビニールシートを張る為のタッカーの玉や壁の石膏ボードを止めるビス等でビニールシートに空いた無数の穴から、石膏ボードとビニールシートの間に入り込んだ湿気がどんどん躯体内に入って行きます。そこで大変な事は、躯体内に入り込んだ湿気を多く含んだ空気が冷たい物に触れ結露してしまうと、結露防止の為に張ったビニールシートが結露、いわゆる『水滴』に変化した物を通せなくなります。まさに『行きはよいよい、帰りは恐い、恐いながら』の『通りゃんせ』そのものです。外部側に、透湿をほとんどしないOSB合板等を張る住宅は躯体内が最悪の状態になる事を予想しています。
『湿った空気を冷たい所に通さなければ結露は発生しない』。理論的には間違いではありませんが、住宅のビニールシート張りの施工をいくら厳しくしても冷蔵庫や水槽や厚手のゴム風船の様に完璧に空気を遮断することは100パーセント無理です。ビニールシートを張って良いことは一つもなく、『余計に壁内結露を作り、その逃げ場をなくす』と云う弊害しか残りません。
この冊子は『断熱施工の落とし穴』ではなく、『断熱施工の落とし穴…の落とし穴』です。